2008年08月29日

グルジアを巡るアメリカとロシアの対立

 アメリカとロシアの対立は激化しているようです。

ロシア:2地域独立承認 米露が非難合戦--国連安保理



 【ニューヨーク小倉孝保】国連安全保障理事会は28日、ロシアがグルジアの南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を承認したことについて初会合を開き、米露が冷戦期さながらの激しい非難合戦を繰り広げた。

 会合は公開で行われ、グルジアのアラサニア大使も出席した。米国のウォルフ代理大使は「ロシアはグルジア領土に軍事侵攻し、いまだに占領を続けている。強く非難する」と述べた。これに対し、ロシアのチュルキン大使は「米国こそイラクで何をしたのか。大量破壊兵器は見つかったのか。イラク、アフガニスタンでも武力が行使された」と反論した。

 さらに、各国が主権国の領土保全を保証すべきだと主張した点についてチュルキン大使は「では、コソボはどうなったのか。コソボこそセルビアの中心だったはずだ。なのに、(欧米の多くが)コソボの独立を支持したではないか」と語った。

 英国のサワーズ大使は「ロシアの軍事行動とアブハジア、南オセチアの承認は正当化できるものではなく、受け入れられない」と語るなど欧州各国もロシアを批判したが、ロシア側は特に米国を名指しして反論を続けた

 ロシアが安保理決議案に拒否権を持っているため、今回の問題で対ロシア非難決議案が採択される可能性はない。そのため、欧米などは安保理協議を通じ、ロシアの孤立を狙っているとみられる。

毎日新聞 2008年8月29日 東京夕刊



安保理で米ロが応酬 グルジア情勢めぐり



 【ニューヨーク28日共同】国連安全保障理事会は28日、ロシアが軍事介入したグルジア情勢を協議したが、グルジアを支持する欧米とロシアとの対立が激化し、提出されている決議案などへの結論は出なかった。

 会合では、ロシアのチュルキン国連大使が、イラク戦争をめぐり「大量破壊兵器は見つかったのか、それともまだ捜しているのか」と米国を挑発。ウルフ米国連次席大使は、ロシアがグルジア・南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を一方的に承認したことを踏まえ「(米国には)イラクへの領土的野心も国土分割の願望もない」と反論した。

 ロシアは、グルジアからの分離独立を主張する南オセチアとアブハジアの代表を安保理の会合に参加させるよう求めているが、欧米の反対で結論は出ていない。

2008/08/29 09:55 【共同通信】


 この対立の何が気になるかというと、欧州各国が幾ら反論しても、ロシアはそれを無視してあくまでアメリカと論争を続けている点ですね。また、欧州各国と毎日新聞では書いてますが、実質ロシアに反対したヨーロッパの国はせいぜいイギリスくらいで、他の国はほとんど反論しなかったのではないでしょうか。

 ヨーロッパの石油やガスは現在1/3ほどをロシアからの輸出に頼っています。今ロシアに石油や発電を止められたら成り立たない国が多く、特にドイツはロシアへのエネルギー依存が高く、ロシアに逆らえない状況だと思います。ドイツでそうなのだから、ドイツよりもロシアに近い東ヨーロッパの国々は言わずもがな。

 ヨーロッパでロシアに逆らおうとしているのはせいぜい地続きでないイギリスか人権にうるさいフランスくらいなものでしょう。

 なので、ロシアはアメリカだけを標的として他の国は敵としてすら見ていない感じがします。無論、他の国を侮っているわけではないと思いますが。




 論理的な言い分だけを聞けばロシアの方が大義名分が立つと私は思います。

 アメリカはイラクに大量破壊兵器があると根拠もなく言い張り、イラクに攻め入りました。でも、あれは正直9.11でオサマ・ビンラディンにしてやられたから八つ当たりで戦った感じがします。なんにしても、イラク戦争の大義名分は崩れ、ただ単にアメリカの侵略戦争でしかなかったと言えるでしょう。

 セルビア・コソボに関しては――難しいですね。セルビアにとってコソボは日本の京都のようなもの。コソボは首都ではないけれど、セルビア建国の象徴で、とても大事な場所です。でも、コソボに住んでる人はセルビア人よりも他の人種――言ってみれば「コソボ人」(正式にはアルバニア人)が多いので、コソボで生活してる人からすれば「ここに住んでるのはアルバニア人ばっかりなのに、なんでセルビア人の言うこと聞かないといけないんだ」と言う感じですね。それで独立した訳です。

 アメリカなどはコソボの独立を認めましたが、ロシアは「昔からコソボはセルビアにとって大事な土地だったのだから勝手に独立させるのはおかしい」と言っていた訳です。正直、この問題についてはどっちが正しいかなどの判別は付けがたいのですが、やってることは今回のロシアと似たようなことで、それをアメリカが文句を言えるものでもないとは思います。

 で、肝心のグルジアですが、グルジアには『南オセチア』という地方があるのですが、ここに住んでいる人の過半数は『オセチア人』で、グルジア人は少ないです。おかげで、南オセチアではオセチア人の独立派とグルジア人の統一派がぶつかり合い、紛争の絶えない地域になっていました。北オセチアは独立しているのですが、北オセチアはロシアの属国で事実上、ロシアの領土です。北オセチアと南オセチアが併合するということはロシアの領土が増えるということです。グルジアの人達は「ロシアに俺達の土地を取られてたまるか!」と必死に抵抗し、アメリカなどの国に助けを求めて南オセチアを守っていました。

 しかし、内部紛争は決着がつかず、終わることはありません。

 そこで、グルジアの大統領は「話し合いをしよう」と独立派の人達に呼びかけました。独立派の南オセチア人達は長く続く内戦に嫌気がさしていたのもあったのか、交渉の場に向かいました。が、そこに待っていたのはグルジアの軍隊であり、南オセチアの人達は一方的に虐殺されました。

 それが今年の8/7のことです。

 これに激怒した南オセチアの人達はロシアに「あいつら人間じゃねぇ!」と言ったか分からないけど卑怯者だと言うことでロシアに越境して避難し、助けを求めました。それを受けて丁度8/8の北京オリンピックの開会式に出ていたプーチン首相は軍隊の発進のゴーサイン。その日のうちに南オセチアの人達を救うためにロシア軍をグルジアに侵攻させ、一気に制圧しました。

 オリンピックの開会式に出てなかったグルジアの大統領はまさかロシアがこんなに早く動くとは思わなかったのでしょう。また、グルジア大統領はアメリカのコロンビア大学出身で、アメリカの政府関係者も多く、大統領選でも「私が大統領になればアメリカに助けて貰い、グルジアを統一出来る」と言って選挙に勝った人です。しかし、肝心のアメリカは動かず、事実上南オセチアはロシア軍に占領されました。

 そもそもこの地域では、ロシアとグルジアの間に和平協定などがあったのだけれど、それを先に破ったのはグルジアの大統領です。大義名分で言えば、グルジアの方が悪いです。

 とはいえ、そのままロシアはどさくさに紛れて「アブハジア自治共和国」に侵攻しました。ここは地図上ではグルジア領となってますが、そこに住んでいる人達はアブハジア自治共和国として独立宣言をし、自治を行っています。が、グルジアはそれを認めず、無理矢理自分の領土だと主張してます。簡単に言えば、中国と台湾の関係に近いでしょう。そして、アブハジア自治共和国は自分で独立宣言をしたのに、他の国がそれを認めてくれないのでいまだにグルジア領扱いでした。が、ロシア軍がグルジア軍を取り除いてあげて、

「アブハジア共和国の独立をロシアが認めます」

 と言った訳です。

 グルジアはそれまでアメリカに根回ししてアブハジアの独立を他の国に認めさせないように頼んでたのに、ロシアがそれをぶち壊した訳です。

 さらには、ロシア軍は南オセチアとアブハジアが安全に暮らせるように、グルジアとの緩衝地帯を勝手に設置して、グルジアが南オセチアとアブハジア共和国に手を出せないように色々と工夫をしています。

 それをアメリカやイギリスなどは「グルジアの領土である南オセチアとアブハジアを勝手に独立させるとは何事だ!! グルジアのことも考えろよ!」と非難しています。するとロシアは

「じゃあ分かったよ。当事者である南オセチアとアブハジアの代表者を呼んで意見を聞こう」

 と言うのですが、アメリカとイギリスは反対です。無論、ここでアメリカとイギリスが代表者を呼んでしまえば独立を認めることになるのでダメです。国際政治の手段としては下策です。が、それではアメリカやイギリスは南オセチアやアブハジアの意見は無視です。あくまでグルジアを守ってるだけでどっちが正しいかは考えていません。


 さて、ここまで見た上で、果たしてロシアとアメリカどっちが正しいでしょうか。

 ま、もっとも政治はどちらが正しいかでするものではなく、どっちの方が利益があるかで動くものなので難しい話ですけれど。

 これが日本にどんな影響があるかと言えば、最終的にアメリカにつくかロシアにつくかを国際連盟で選ぶことになり、アメリカにつけば、ロシアにつくだろう中国との仲が更に悪くなり、靖国問題とかその他諸々の色々な対立が激しくなることになります。まあ、だからといってロシアにつけばいいかというと、難しい話です。

 ……なーんていうのは日本人らしい考え方。本当ならば、「この件はロシアを支持します」「でも、この件に関してはアメリカを支持します」とそれぞれの別件に対してはパートナーではなく、自分の主義主張で対応するのが正しい在り方なんですけれどね。ただ――それでも今の日本にはそんな強気な態度には出れないでしょうねぇ。

 ……ちなみに、日本がそんな強気な態度に出てる案件がひとつだけてあって、それは捕鯨問題だったりします(笑)

 久々に長い日記になりましたので今日はこんなところで。


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Posted by 哲学 at 17:27│Comments(2)ニュース
この記事へのコメント
南オセチアです。
オセアニアはオーストラリア大陸とその周辺および太平洋の島々 です。
Posted by ruru at 2008年09月10日 20:31
 ぎゃあ!恥ずかしい! 修正します。
Posted by 哲学 at 2008年09月10日 23:11
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