2008年04月10日

『青少年ネット規制法案』

 聖火リレーの話で埋もれそうな勢いはありますが、こちらも重大な問題です。
 知らない人のためにもう一度説明すると『青少年ネット規制法案』とは、18歳以下の子供にはインターネットの有害情報を見れないように規制しようという法案です。それだけだと聞こえはいいのですが、「有害情報」の判断基準が曖昧で、かつ、膨大なネット上の情報全てを規制できる訳がない、実行したとしてもネットの監視に莫大なコストが生じるという現実問題など様々な問題を含んでいます。
 以下に、主要な記事を幾つかピックアップします。

 まず、この『青少年ネット規制法案』に対して、東大教授にインタビューしたものです。

青少年のネット規制法、「目的は正当でも手段が大まかすぎる」--東大教授が苦言


(前略)
 自民党、民主党の法案について、EMA審査・運用監視委員会の委員で、総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」で座長代理を務める東京大学教授の長谷部恭男氏に考えを聞いた。


 表現活動、および、それに関わるビジネス活動に規制が必要だとしても、法的な規制は最後の手段であるべきではないでしょうか。また、法的な規制を仮にするとしても、この場合は「青少年の保護」という目的に、適切に、ぴったりと合った手段が取られるべきであって、「目的が正当だから、手段のほうはかなり大まかなものでも良いだろう」という考え方は取るべきではありません

 EMAもその1つですが、民間のノウハウなり、自主的な取り組みなりを育てて、(事業者が)「自分たちが良い方法を目指してがんばっていけば、それに応じて社会的にも認めてもらえる、活動の場も保障される」という形の仕組みを作り上げていくほうをまず考えていくべきだろうと思います。

 法的な規制でもって悪いものを排除しようという方向を進めると、何とかして網の目をかいくぐろうという方向にインセンティブを与えてしまうことになりかねません。そうすると、規制する側といたちごっこになり、どちらにしても社会的なコストがどんどんかかっていく可能性があります。それよりもむしろ、青少年の保護にきちんと配慮した取り組みをしていくことで社会的にも認知され、それが活動の保証にもつながっていくという仕組みが、まずは考えられるのではないでしょうか。

http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20371021,00.htm
C-NET


 さすがに専門家だけあって適確に問題点を指摘しています。法で無理矢理規制しようとしてもそれは地下に潜るだけというのは当然の形です。対策するにしても他の方法があるでしょう。
 これらの問題に対して適確な記事を書いているのが、ITジャーナリストの津田大介氏です。


津田大介:「青少年ネット規制法」成立はほぼ確実 その背景と問題点


(前略)
 しかし、一概に「有害情報」を規制するといっても、どこからどこまでが青少年の発展に対して「有害」になるのか非常にあいまいであることは事実。まずは、自民党、民主党それぞれの(現時点における)有害情報の定義を見てみよう。
(中略)
 これらの定義をまとめると以下のようになる。

(1)ポルノコンテンツに対する規制→自民党案(1)/民主党案(1)、(2)

(2)暴力的コンテンツに対する規制→自民党案(2)/民主党案(3)

(3)自殺、児童売春などの犯罪を助長させるコンテンツに対する規制→自民党案(3)(6)/民主党案(4)

(4)違法薬物情報に対する規制→自民党案(4)

(5)ネット上のいじめ(学校裏サイトなど)に対する規制→自民党案(5)/民主党案(5)


(中略)

 現実的な運用面でもっとも問題になりそうなのは、有害情報の定義だろう。前述の(1)ポルノコンテンツ、(2)暴力コンテンツについては、規制についてのある程度の“実績”もあるし、比較的定義付けもしやすい。ポルノはゾーニング(フィルタリング)で対処し、暴力的コンテンツは映画や有害図書規制などと近い基準のレーティングやセルフラベリングに基づいてフィルタリングすればOKだろう。

 (3)の自殺、児童売春を助長させるコンテンツ、(4)の違法薬物情報については、どこからどこまでを「有害」と定義するのか微妙な部分が残る。極端な話をすれば、ページに散りばめられたキーワードに基づいてフィルタリングをかける「キッズgoo」のようなシステムの場合、犯罪を誘発するかどうか分からないサイトもフィルタリングされてしまうからだ。

 例えばキッズgooで「自殺」と検索すると、上位20件のうち15件のページがフィルタリングされる。しかし、実際の検索結果を見てみるとフィルタリングされた15件のうち6件は自殺問題を統計・資料的に研究するようなサイトである(いわゆる「自殺サイト」と呼ばれるような掲示板サイトは3件)。このフィルタリングの精度を高いと見るか、低いと見るかは人によって様々だろうが、こうしたフィルタリングが問題のない情報のアクセスまで遮断していることは事実である。

 自殺サイトをきっかけにした自殺や、薬物汚染、出会い系サイトの隆盛による売春のカジュアル化など、ネットが現実の犯罪と結びつく事例が出てきているのも疑いのない現実だ。ただ(3)(4)の問題の場合、起点となっているものの多くが掲示板形式・コミュニケーションサービスであるということを忘れてはならない。事例がパターン化していることを考慮すれば、従来の犯罪事例に基づいてコミュニティやCGMサイトの運営者が共通で使える安全基準やサイトフィルタリングのためのガイドラインを作ることで、法規制ではない自主規制という形で実効性のある有害情報対策が行えるはずだ。

□「いじめサイト」はフィルタリングできない

 もっとも問題が大きいのは(5)ネット上のいじめ(学校裏サイトなど)に対する規制だろう。これは「学校裏サイト」と呼ばれる掲示板や、SNSなどのコミュニケーションサービスを通じて行われる「いじめ」を有害情報として規制するものだが、「いじめ」に該当する言語をフィルタリング技術で定義するのは非常に難しい。

 今までも「荒れる」ことを避けるために掲示板にNGワードを設定してきたサービスは少なくないが、特定のワードがフィルタリングされることを学んだ子どもは「隠語」を作ることでそうしたフィルタリングをすり抜けてきた。

 純然たるコミュニケーションサービスの場合、(1)~(4)のようにある程度の精度で機械的にフィルタリングできるわけではない。コミュニケーションとは「単語」そのものでは意味を成さず、文脈に依存するからだ。

 仲の良いクラスメイトに対して「お前バカだな!」と褒める文脈の書き込みをした場合と、いじめの対象になっている人間に対して「お前バカだな!」と書き込む場合で当然文脈は異なるわけだが、それを機械的に判断することはほぼ不可能だ。それらを一緒くたにフィルタリングすることで、健全なコミュニケーションまで阻害されてしまう懸念がある。

 自民党案では、有害情報が書き込まれた場合、Webサイト管理者に対しては18歳以上の者を会員とするサイトへの移行措置と、フィルタリングソフトへのラベリング情報の提供を義務付けている。これを月間100億近くのPVを誇るディー・エヌ・エー(DeNA)の「モバゲータウン」に適用して考えた場合、どうなるか。

 モバゲータウンは24時間365日体制・350人という監視人員を用いてルール違反の書き込みの抽出と削除を行っている。しかし、それでも漏れてしまう「有害」情報はあるだろうし、これに加えて自民党案・民主党案が定義するユーザー同士の「コミュニケーション」、つまり(5)まで含めた場合、モバゲータウンは18歳以上限定のサイトに移行するか、自らを「有害サイトです」とラベリングする情報を、フィルタリング業者に提供するほかなくなる。後者の場合、18歳以下のユーザーがモバゲータウンを使って健全なコミュニケーションを行っていたにも関わらず、ある日突然サイトごと見られなくなってしまう事態が生じるわけだ。

 この法案が施行されれば、こうしたサイト運営者の義務を逆手にとった背信的悪意者も登場しかねない。例えば、ある18歳以下も対象にしたコミュニケーションサービスのライバル企業や、掲示板やコメント機能を設けているブログなどのサイト管理者に意図的に有害情報を書き込み、ブラックリストに掲載させるといったケースも生じるだろう。

□有害情報ホットラインは現状でもパンク状態

 自民党案は1度ブラックリストに掲載されたあと、健全なサービスですということを証明し、ホワイトリストに復帰する手続きなどは民・民の調整期間で行うよう規定している。この民・民の調整期間はインターネット・ホットラインセンターが想定されているが、同センターに寄せられる通報は昨年1年間で計 8万4964件。年々通報件数が激増しており、現在でもパンク状態になっている。

 重要なのは、現在のインターネット・ホットラインセンターが受け付けている違法情報は「わいせつ情報(わいせつ物公然陳列、児童ポルノ公然陳列、売春防止法違反の広告、出会い系サイト規制法違反の誘引行為)」「薬物関連情報(規制薬物の濫用を、公然、あおり、またはそそのかす行為、規制薬物の広告)」「振り込め詐欺等関連情報(口座売買などの勧誘・誘引など、携帯電話の匿名貸与業などの誘引など)」の3種類に限定――つまり、有害情報定義の(5)で想定されるような名誉き損、誹謗中傷行為などは現状取り扱い対象外になっている――ということだ。

 現状でもパンク状態なのに、今回の法案が施行されてインターネット・ホットラインセンターが、自民党・民主党が定義する「有害情報」の可否を巡る仲裁を行うようになれば、取り扱い件数はこれまで以上に膨大になる。インターネット・ホットラインセンターが正常に機能することは困難になるだろう

(後略)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0804/09/news096.html
ITmedia


 色々と無理矢理抜き出してきましたが、とてもいい記事なので是非URLを辿って全文を読んで貰いたいと思います。
 が、まあなかなかの長文なので忙しい人は、哲学さんなりの抜粋で我慢してください。
 上記の通り、フィルタリングでは有害情報をシャットアウトするのが技術的に不可能です。むしろ、「自殺はしたらダメだぞ!!」と言うサイトまで見れなくなってしまう可能性が高いです。逆に、自殺のことを隠語で書いてるサイトには子供達が平気で行くことが出来る訳です。
 例えば、「自殺」の事を「解脱」と言い換えたサイトが出てきて「人生に飽き飽きしたからこれから俺、解脱するわ」とか掲示板に書かれても規制できない訳です。人殺しのサイトも「殺し」のことを「狩り」と言い換えたサイトが出てきて「俺、自分のツレが気に喰わんからちょっと狩ってくるわ。拳銃も用意したし、薬も用意した。万全だ」とか書かれても規制できない訳です。もし、仮にこの言葉を規制したとしても、今度は「狩り」とか「解脱」とか書かれたページが見れなくなったりする訳です。
 また、単純に「殺す」とか言う単語をフィルタリングしてしまうと子供達はゲームの攻略サイトを見れなくなる可能性も高い訳です。
 このように、現状の法案では様々な問題があり、仮に制度化するにしてもまだ実用化には時期尚早でしかないでしょう。これに対してインターネットの表現の自由を守る為に活動している「MIAU(Movements for Internet Active Users:インターネット先進ユーザーの会)」が反対運動を起こしています。
 5月1日午後6時30分に都内でこの問題についてのイベントを開催する予定らしく、この問題に関心のある方や、近場におられる方は彼らの活動に耳を傾けるといいでしょう。

関連リンク:
MIAU(Movements for Internet Active Users:インターネット先進ユーザーの会)公式ページ
http://miau.jp/
「青少年ネット規制法案」にMIAUが問題点指摘 イベント開催へ
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0804/09/news085.html


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Posted by 哲学 at 03:57│Comments(0)ニュース
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